・光り待つ場所へ 著:辻村 深月
辻村深月の短編(と言っても良いのかな)を3つ集めた本。
それぞれ、これまでに書かれた長編のキャラを使った、短編集になってる感じ。
独立した短編として読めるので、どの作品から読み始めて問題無し。
何より、そのキャラクターが出てる作品を事前に読んでなくても、十分読める。
というわけで、基本的には短編集でした。
それぞれ、これまでの作品に出てきたキャラが主役になってたり、
もしくは脇役なんかにも登場したりしてる、そういう短編集かな。
3本とも、事前にそのキャラを知らなくても十分楽しめる作品でした。
どれが一番か…ってのは判断しづらいので、3作全部読むのがお勧めかな。
それぞれ違う事を題材にした作品群に見えるけど、
その実タイトルの「光り待つ場所へ」と言うフレーズが全てに当て嵌まる。
ちゃんとそんな作品ばっかりだったな、と言うのが良く判るのが良かったかなー。
つまり、3作品ともその先へ進む一歩手前の、そんな話だったって事です。
読み終わればどのキャラクターも、また一歩先へ進んでいったんだな。
という事がきちんと判るし、その部分はきちんと統一されてたんじゃないかな、と。
1作目は「しあわせのこみち」で、清水あやめが主人公。
ちなみに清水あやめは「冷たい校舎の時は止まる」のキャラ。
絵を描く事で負けた事がなかった彼女が、大学に入って敗北する…。
それでも絵を描くことしか自分にはない事、負けたから終わりではない事。
そして自分に勝った本人と交流していく事で、一歩先へ進むって言う話。
2作目は「チハラトーコの物語」で、スワロウハイツの赤羽環が登場。
嘘をつく事を日常にして生きてきた、千原冬子が嘘の世界から抜け出す話で、
現実的に生きる赤羽環と、高校の頃にやりあった事が描かれて面白かった。
大人になって、売れないプロのモデルとして、それでも嘘を武器にして生きてきた。
そんな女が、赤羽と再度大人になってから出会い、一歩先へ進む事になる。
その過程が、過去を絡めて書いてあって中々面白い話だった。
3作目は「樹氷の街」で、中学生の合唱コンクールを題材に、
「凍りのくじら」の松永郁也の中学時代を描いた作品って感じかな。
この作品に関しては結構ベタな展開ではあるとは思うんだけど、
キャラクターの使い方等、読んでて不満があるという事は全くなかった。
素直に読める短編、と言うのが一番似合う感想だったかな。
というわけで、3作とも青春を描いた短編と言っても良い感じ。
逆に言えば青春だからこそ、こういった問題に直面すると言うことの表れで、
これを乗り越えられるかどうか…それで人は一歩先へ進む事が出来る。
そういう事が3つともに描かれてた共通点なんじゃないかなーと思う。
勿論、その青春と言うものには年齢はそれほど関係なく。
青臭く、自分が求めるものを求め続けられるか…そういう事で。
それ以上でもそれ以下でもないんじゃないかな、って感じだったけど。
三者三様に、一歩先へ進めてるという所が良かったかなぁ…と。
まあ、基本的にアンハッピーエンドはあまりない作者ではあると思うけどね。
やっぱりそれにしたって、昔一度出てきたキャラクターが再度動いて、
きちんと主役としても、物語を作っていけると言う部分が良かった。
キャラクターの再利用と言われると、それまでではあると思うけど、
逆にそういう再利用をしてなお面白い、良く描けると言うのが凄い。
所々に、赤羽環等、既に色んな意味で達成をしている人たちを使いつつ、
ストーリーを紡いでいくという所が読んでて面白かった。
光りが待つ場所。
そこへ辿り着くまでにぶつかる障害、壁、苦労、苦悩…。
それは人それぞれで、解決方法もやっぱり人それぞれで。
だからこそそのそれぞれに物語がきちんとあるという事。
それに対してどのタイミングでぶつかるのかもやっぱり人それぞれで。
どういうきっかけなのかも人それぞれで…。
そういうのが描かれてた短編集で、辻村ファンなら尚の事面白いんじゃないかと思う。
勿論、辻村作品をもし読んでなかったとしても十分面白い作品である事も間違いなく。
そういう意味じゃ、短編だとしても完成してるんだなぁ…って感じるよね。
なんにせよ短編だけど読み応えは十分。
まあ3作とも、多少キャラクターに嫌味な所を感じる部分もあるんだけど、
それも含めてきちんと面白くなる、そんな一冊でした。
なんていうか読む事で、これまでの世界観も広がっていく。
そんな感じがする所も面白いんじゃないかなー。