・夜桜ヴァンパネルラ 著:杉井 光
杉井光さんの夜桜ヴァンパネルラ。
しばらく前に本屋に行った時に見かけたので買って来てましたが、
最近小説を読んでなくて積んでたので…折角なのでさっくりと読了。
表紙の黒髪ロングの女の子に惹かれたと言うのもあります。
ヴァンパイアがモチーフの作品だと黒髪ロングの少女…。
と言うイメージはありますが、そこに白い肌と赤い血の色。
定番ですがこの組み合わせにはやはり破壊力があるのかなと。
と言うわけで今回の杉井さんの作品は吸血鬼(ヴァンパイア)ものでした。
単巻ものなのかシリーズものなのかはちょっと判りませんでしたが、
この巻の中である程度奇麗にまとまって終わってたのかなと言う感じでしたね。
奇麗にまとめつつも今後何かあれば続も…と言う含みは残してありましたが。
あまりシリーズとして出してるのか、単発として出してるのか。
そう言う所を事前に調べたりしないので…。
ただ個人的には設定含めて続巻あったら買うかなーとは思います。
後、やっぱり吸血鬼ものは少し難しい部分はあるのかなと言う感じでした。
ぶっちゃけ結構どこかで見たような設定はあちこちにあると言うか…。
ただその辺はある意味吸血鬼を扱う、と言う作品の共通概念とも言えて。
それを上手く組み込みつつ、物語を進めていけるかどうかが大事ですね。
逆に”ヴァンパイア”と聞いて想像出来る部分を全て破棄してるとしたら、
それはもうヴァンパイアものではないとも言えますけどね!
なのでその辺は割と上手く物語りに組み込まれたのかなと。
特に大きく描かれてたのはやっぱり種族の違いに当たる部分と言うか…。
ヒロイン(って言って良いのかな?)の倫子の抱えるものも大きくはそこですしね。
ヴァンパイアとして産まれた種族の違い、人間との共生、その中での葛藤確執。
今回の話だとヒロインの倫子にも騒動の元凶であるヴァンパイアのどちらにも、
それぞれ自分自身を取り巻くものが大きく影響してたのが見て取れましたしね。
その辺は色んな作品でもありがちな部分が描かれえたのかなとも思います。
人間社会と言うものの中で、異種族でありながら生活していく部分と言うか。
ただ、救いだったのは主人公の紅朗が鈍感と言うか、そう言う部分に疎いと言うか。
自身の両親をヴァンパイアに殺されているにも関わらず、
同じヴァンパイアと言う存在である倫子に対してそれをぶつける事が無い。
まあ…こういった境遇のキャラクターとしては割と珍しいタイプの主人公なのかな。
偽善者と言うわけではなく、ヴァンパイアによる犯罪に対しては憤り取り締まる。
けれどヴァンパイアが全てそう言った存在ではない事も倫子を通じて知る。
だからヴァンパイアだけど倫子に対してそう言う目を向けることはない。
それを総じて自分はバカだから、と言って済ませてる感じでしたが、
そうやって分けて考えられると言うのは大事な事なのかもしれません。
後主人公が倫子を見てヴァンパイアが全て悪ではないと理解したように、
倫子も紅朗を通じて人間が全て自分と言う存在を否定するものではない…。
かつて自分をヴァンパイアだと知ってなお人と同じ様に接してくれた育ての母。
その存在と同じように接してくれる人も居る事を知る、って言う所ですね。
要はその母を自分のせい(だと思ってる)で亡くして以来世を拗ねてる所がある。
と言うのがヒロインの倫子なわけですが、それを変えていくストーリーと言うか。
なのでこのあたりはお約束とも言えるボーイ・ミーツ・ガールな要素でした。
…まあ、ボーイやガールと言うには実年齢がかなり上の2人でしたけどね。
概念としてのボーイ・ミーツ・ガールは十分に満たしてた作品でしたね。
まあ、とにかくそんな倫子の姿が可愛い作品とでも言えば良いのかな。
やっぱりこう、ツンからデレ(と言うほど極端ではないですが)に…。
と言う部分がしっかり作中の時間経過で描かれてると愛らしいですよね。
特に倫子は黒髪ロングで真っ白な肌と言う澄ましたキャラクターですしね。
紅朗と関わることで澄ました部分が変わっていくと言うのは良いものです。
作品の終わり方についてはまあ、切なげな感じと言えば良いのかな…。
同じ第一世代である彼との会話をもって関係は終わるわけですが…。
倫子も紅朗や育ての母、梨沙が居なければ同調してたかもしれませんし、
この事件の最中でもそう言う方面に何度も揺れてる部分はありましたからね。
勿論人間の側に立つ、と言う事が最適解でもなければ最善でもないですし。
そこはこれまでも、これからも倫子はずっと考えていかなければならない。
そう言うものだとは思いますが、それを考えた時に傍に色んな人が居る事も考える。
結果的に事件を通じてそう言った人を得られた事は倫子に対しての救いなのかなと。
あー、強いて言うなら力の強さの関係が少し判り難かったかな? と。
いや、相手側の第一世代を見る限り、第二世代とは隔たりがあるぐらいの強さがある。
と言うのはわかるんですが、作中でのその相手は最後を見る限りそれを望んでるのか…。
それが良く判らないですし、倫子は倫子で血をなるべく吸わない事を是としてるので。
なので最後も紅朗から血を分けて貰うまでは第二世代と同格ぐらいの力だったので…。
単純に難しい事はさておき、やはり真祖の力は圧倒的であって欲しいと言うか。
どんな作品でも真祖に対してそう言うイメージがあると言うのは否定出来ませんね!
と言うわけで個人的には結構面白かったし、キャラも良かったです。
まーただ事件の黒幕(とは言い難いんですが)が七月なんだろうなぁ…。
と言うのは割とすぐ判っちゃってた部分はあって、なのに七月が悪とは言い切れない。
つまり七月の思考も行動自体も悪いとも言えない、そんな部分は少し消化不良かな…と。
七月は七月で、ヴァンパイアと言う種族のコミュニティを大事にしてるだけと言うか。
倫子とはまた別の形での生き方を選んでるだけなので何とも言えないんですよね…。
なのでぶつかるべき悪としては別が用意されてるんですが、まあ少し不足だったかなと。
でもだからこそ、最後の2人の会話が何とも言えない切なげなものと言うのはあって。
どちらにも考え方や生き方、取り巻く環境がある…と言う事が判るんですけどね。
そんな感じでキャラクターは良かったですし、一つの作品としての終わり方も悪くなかったです。
続きが出るのであれば読みたいな、と思うものも十分残したままでしたが…。
とは言えちゃんと完結してるのでモヤっと残るものはありませんでした。