雨の日のアイリス。

雨の日のアイリス 著:松山剛

雨の日のアイリス (電撃文庫)

第17次電撃大賞4次選考作品、雨の日のアイリス。
4次選考作品と言うよりも、表紙のイラストに魅せられて買いました。
壊れたロボットをやさしく抱く、スカイブルーの目のメイド姿の女の子。
って言うアンバランスさと、そのくせなぜか調和してる部分に惹かれて。

とりあえずなんですかね、これはラノベ枠ではありますが。
何ていうのかな、形を変えて表現された古典…とでも言う方が良いのか。
少なくとも、この作品におけるテーマは決して新しいものではありませんでした。
恐らく、題材としてははるか古くから存在してるものなんじゃないのかな、と言う印象。
ただしだからといって古臭いわけではなく、今のある意味では萌えと融合してて。
なるほど、そういう側面から見ればライトノベルで良いのかな…という感じ。
こういう作品を読めば、純文学だのライトノベルだののヒエラルキーがどうとか。
そういった概念がいかにどうでも良い事なのかが、判るんじゃないのかな、と。
文体や表現方法、それらは違っても、描かれてる事の本質、と言う意味でですが。

結論から言えば非常に面白かったです。
この場合の面白い、は語彙としてどうなのかなーと思いながら書いてますが。
総じて良かった(色んな意味でね)事を表す単語だと思ってもらえれば幸い。
単巻ものですが、ここ最近のライトノベルではトップクラスかなと思うレベル。
ある程度自信を持って、読んでみて欲しいとお勧め出来る面白さでしたね。

ただ、題材としてはほんと古典だと思います。
ロボットやアンドロイドの心、そういったものが一貫してテーマになってて。
それってある意味では古典とも呼べるテーマと言うか…題材ですよね。
はるか昔から、それこそロボットやアンドロイドと言うものが想像されてから。
幾度となくそういった部分はテーマとして上がって来た事じゃないかなと。

この作品の中でも、アイリスと言うアンドロイドを通して、それらが描かれてます。
突然生みの親、愛する博士を失い、失意に飲み込まれ、スクラップにされ。
訳もわからず動労用ロボットとして、精神回路以外は別の姿になり。
そこで出会った二人のロボットと心を通わせて行くけれど、
スクラップで出来た自分の体は既に長く持たないであろう事。
だから人間に逆らって、三人で作業場を脱走すると言う決意をする所。
こう言った所に、ロボットやアンドロイドならぬいわゆる心が見え隠れすると言うか。
愛する生みの親である博士を失った時の失意に関しては人間そのものだったり。
それでも体が変わっても心を失う事がない部分はやっぱりロボットでもあったり…。
そういった事が始終描かれてる感じですかね、この作品の中では。

他にもそれがアイリスだけではなく。
リリスやボルコフと言った、作業場で出会ったロボットもある意味では同じであったり。
自らの意思でリリスを守るために戦ったボルコフの感情みたいなものが見て取れたり。
最後はすべてをアイリスに託したリリスの心といったものも描かれてるんですよね。
もちろん、機械的に言えばボルコフの安全回路が壊れたから起こった事なのかもしれないけど。
それが起こるのもやっぱり、ボルコフにその意思が、リリスを守りたいと言う思いがあったからで。
そういう部分だけは姿かたちを描写されてなければ、もはや人間の心そのものなんですよね。

そうしてボルコフが爆破され。
リリスもぼろぼろになって動かなくなり。
託されたアイリスが無我夢中でたどり着いたその先で見た博士に似た像。
既に視覚センサーが壊れかけてたアイリスが、それを博士だと誤認するのも仕方ないし、
ある意味ではそこまでたどり着けた事が奇跡だったのかもしれないんだけど…。
結局、心があったからこそそこまでたどり着けたと言う事がわかると言うか…。
脱走した事も、ボルコフが戦った事も、リリスがアイリスに託した事も。
心と言うものが存在するからこそなのではないだろうか。
と、思えるし、心があって欲しいと思える最後だったのが非常に良かったです。

一番良かったのは、最後に博士が残した別の体で生まれ変わったアイリスが、
まっさきにリリスを助けに飛び出していった所だったかなと思いますけどね。
このあたりは、ある意味ではもう蛇足の範囲に入るのかもしれませんが。
心があるからこそ、一緒に逃げた仲間を助けに行く事を何よりも先に思い立った。
それだけの話だけど、それにこそこの作品のテーマが詰まってるんじゃないのかな、と。

失くしたものもたくさんあるけど。
博士の残した遺産を、ロボットやアンドロイドを助ける事に使おうと決めたり。
そういう風に思える、と言うのは人間の成長と同じ理論なんじゃないかと想像出来るし。
最後の最後まで、それが描かれてたのが非常に良かったですね。

と言うわけで雨の日のアイリス。
正直最初はもっと萌えだけの作品なのかなと思いながら読み始めたんですけどね。
電撃文庫って、こういう作品を時折きちんと出してくるから怖いよね…いや本当に。
何よりアイリス可愛いなーと思ってたらいきなり四肢切断シーンだったりしますからね…。
しかもポンコツオンボロのロボットに姿が変わってストーリーは進んでしまうし…。
心がどうとかより、なにそれ全然可愛くないよ! って感じですけども。
それでもやっぱりアイリスだなぁ、と思えるのは心の部分なんですよね。

いや、非常に面白かったのでお勧めの作品ですよ!
こういう風に単巻できちんと、しっかりと描きたい事を描く。
と言う事のほうが、だらだら続いてる作品よりもよっぽど難しいと思うし。
こういった作品がしっかり出てくるのならまだまだ捨てたもんじゃないですよね。

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