・祈りの幕が下りる時 著:東野 圭吾
東野圭吾の書き下ろし長編作。
帯等にはこれと言って注意書きはなかったので新刊として購入しましたが。
東野圭吾の加賀恭一郎シリーズの第10作目に当たる作品となってます。
なので、出来れば加賀シリーズを読んでからの方が良い作品ですね。
と、最初にシリーズものと注意書きをしましたが。
俺は新刊コーナーで購入したので、実の所加賀シリーズを全部読んでないんですよね。
この作品が加賀シリーズだった、と言う事に気づいたのは買ってからでした…。
スタートから読み始めるのが好きなタイプなのでちょっと勿体無いなとは思いましたが。
読んでみた結論から言うと、正直シリーズとしてではなくでも十分読める作りかなと。
恐らく、加賀シリーズを読み進めてきた人ならもっと楽しめたとは思います。
思いますが、読んでて逆に理解できなかったと言う部分も個人的には発生しませんでしたね。
基本的にこの作品の中である程度しっかりとキャラクターを固めてるので、
前作、シリーズを読んでないと理解が出来ないと言う部分はあまりなかったと思います。
加賀の成り立ちや思念思想、そういったものをもっと深く知る為にはシリーズの前作を…。
と言う部分はありましたが、それ以外の本書で描かれてた部分については問題はないのかなと。
で、全体的にハードボイルドな雰囲気のサスペンス・ミステリーと言った印象でした。
キャラクターとしては加賀が非常にストイックと言うか…行動力はあるけど誠実で。
肉体派臭いな、と思うものの作中で一番物事を思案して行動してるのが良く判って。
それに釣られて松宮や、他の刑事たちも良い方向に動いてる、と言う感じでしたね。
むしろ刑事だけでなく、加賀と関わった人がそう言う傾向にあるのかなという感じで、
ただしこの作品においてはそれが一つの、加賀の母親の過去と繋がる事件を暴く切っ掛けになった。
そんな感じの作品でした…とにかく加賀と言う男の存在感、それを楽しむ作品だとも言えますね。
その上で本作品のテーマになっている家族愛。
それが、帯で言われているように全身全霊を持って描かれてたのかなと思いました。
ただ、家族愛…と文章にして感想を少し書くだけでは中々伝わらないと思いますが…。
作中では二組の、家族への愛、絆…そう言ったものが描かれてました。
その内の一つが加賀に関わる…というより加賀自身の話でもありますね。
加賀の父の元を去った加賀の母親、その人がどう想いそれからを生きて行ったのか。
そう言う部分が、作中で少しずつ描かれ、そしてまた加賀に伝わっていく。
作りとしてはそんな感じになってました。
もう一つはさらに悲愴な家族愛。
元役者(劇団員)で、現在脚本演出家である浅井博美とその父親との深い家族愛。
深く、とても深いが故にこうして長い年月を経て暴かれる事になってしまった家族愛。
もし加賀の母親が家を出て、東北に行く事がなかったら暴かれなかったであろう。
浅井博美が加賀と言う存在に近づかなければ暴かれなかったであろう。
そんな、深くて暗い、でも愛としか呼べない物語でした。
その二組の家族愛をテーマにしながら、加賀が少しずつ真相に近づいていく。
作りとしてはそんな感じでしたが、そこに関わってくる人達や謎。
そう言った物が少しずつ解き明かされていくのが非常に面白かったですね。
まあ、テーマと言うか浅井博美の家族の愛については面白いと表現するのは些か…。
と言う所はありますが、そういった事情を抱えていたからこそのテーマでもあり。
同時に二つの家族をしっかりと浮き出させているのはあったのかなと思います。
そんなわけで、この作品単体でも十分楽しめる出来でしたが。
この作品を読んだ事で俄然、加賀シリーズをしっかりと一から読んでみたい。
と思えたので、今度は今更ながら逆順ですが加賀シリーズを読んで行こうかなと思います。
第十作目にしてこの面白さなら、一作目から読まない理由が全くないと言う所ですね。
とにかく加賀シリーズに触れた事がある人なら是非もなし、と言う作品でした。