・とある飛空士への夜想曲 下 著:犬村小六
ゆっくり読むかな、と思ってた下巻だけど。
読み始めたらさくっと終わってしまっていた…喜ぶべきか悲しむべきか…。
表紙の表情に全くの余裕がないのも頷ける内容だった。
んー…でも個人的には結末がうーんって感じだった。
ちなみに内容が面白くないからうーん、っていうわけではなくて…。
まあ、古今東西この手の作品だと割とお約束なんだろうけども。
結局当事者の千々石とユキ、その二人が幸せ…ハッピーエンドだったのか。
って視点で考えるとなぁ…やっぱりそうじゃないと思うんだよな、この結末は。
だからこそ良いというか、そこに矜持みたいなものがあるんだろうけど。
出来れば物語の結末ぐらい、主人公とヒロインがハッピーであって欲しい。
という意味でのうーん。
単純に話としては面白かったですよ。
前作まではどちらかと言えばスカイオペラが前面に押し出されてたけど、
今作はもっと泥臭くて、形が違えばどこにでもあったようなそんな物語で。
勿論史実(WWや色々な戦争)を元にしたりアレンジしたり。
実際にその最中にはあった可能性だってある、そんな話だと思う。
戦争が良いか、悪いか…という論点はこの場合脇においてね。
戦いに挑む一人の男と、その男を愛してる女の物語。
ってのが一番大きかったんじゃないかなぁ。
まあ、作中ではそれ以上に海猫との戦いと言うか。
ある意味海猫と戦いたいってのも恋愛感情みたいなもんだと思うけど。
そういう部分が重要視されてて、ユキとの語らいは少なめだったけど。
その分ユキとの関係は甘酸っぱくて、応援したくなるような感じだったかな。
でも実際、戦いに赴く人間はこう考えてもおかしくはないと思うし、
ただただユキを真摯に思ったから…ってのはあると思うし。
そういう意味では非常に純粋で、でも稚拙な恋愛感情だったけど。
海猫との戦闘は良かったよ。
両者ともに格好良いし、なんだろう格好つけて戦ってるとかじゃなくて。
ただお互いの技量を認め合った上で、相手を打ち落としたい…みたいな。
戦争でなく、スポーツであれば良い好敵手として一生競ったであろう。
という事が良く判る間柄と言うか…関係性が描かれてた感じかな。
勿論周りの思惑や思想、そういったものの影響を受けてて、
きちんと公平性のある舞台で戦ったわけではないんだけども。
それは戦争の不条理と言うか…仕方のない事であって。
どちらを責めるべき問題でもないってのがね。
後この二人、もの凄く似たもの同士なんだよなー。
だからこそライバル足り得たんだろうけど…最後の最後まで考えが同じと言うか。
相手がこうしたら自分もこうする、更にこうしたらこうしてやろう…。
考えが同じだからこそで、千々石がその先を行ったのはただの偶然。
といっても良いし、偶然ではなくてただの意地といっても良いと思う。
敵戦闘機ウン百機に囲まれてて、もう後がない状況だったからこそで、
これが帝軍が海猫を囲っている状況だったら逆になりえた可能性もある。
それほどに似ている、逼迫している、拮抗しているのが良かった。
何より背負ってるものが同じなんだよね。
自分のため、国のため…色々あるんだろうけど最後は女の為。
惚れた、好いた女の為に実力以上の実力、運以上の行動。
それを出しえた、って言うのはやっぱり両者共通してて。
もしも同じ空を、ただ二人で飛んでたとしたらどんな光景だったのか。
そう妄想すると胸が熱くなる位の二人だったのが非常に良かった。
立場が違って、守るべきものが違った、それだけの話なんだよな…。
勿論だからこそこの二人が互いに研鑽出来た、とも言うんだけど。
だからこの二人の話としては非常に良かったと思う。
最後の最後、勝った千々石が逝ってしまう…という点を除いてはね。
古今東西、そんな話は幾らでもあるんだろうなーとは思うんだけど。
やっぱりなんともいえない気持ちになるよね、って言う。
後他の脇キャラも結構良かったなー。
列機の杉松も最後まで千々石に着いて行って散ったけど。
どちらも千々石の本当の意味での右腕、左腕だったし。
千々石も邪魔とかうざい、っていいながらも可愛がってたし。
波佐見もキャラとして凄く良かった…後観音寺や御堂も。
この人の作品ってこういう風にキャラクターが魅力的なのが良いよね。
出来れば、観音寺や御堂ももっと長く見て居たかったのもあるけど。
戦争だからな…仕方がないとも言える…。
と言うわけで面白かったのは面白かった。
この手のいわゆる死亡フラグ、とかいわゆるお約束、とか。
そういった部分があってある程度先を読めたりするのはあるけど。
読めてもなお、熱く読める作品だという事は否定できないと思うし、
相変わらず独自の世界観で描いてる空戦は面白いの一言。
前作までを読んでる人なら、やっぱり面白く読める作品だったかな。
って言うのが素直な感想ではあったよ、素直に面白かった。