ルー=ガルー 忌避すべき狼。

ルー=ガルー 忌避すべき狼 著:京極夏彦

ルー=ガルー (トクマ・ノベルズ)

そう言えばずっと本棚に締まってあったルー=ガルーを。
今更ながらに思い出して、先日から少しずつ読んでて、朝読み終わりました。
元々京極さんの作品は好きなんですが、これは多少毛色が違う感じがして。
とりあえず後で読もう…と、締まっておいた結果、気付いたらアニメになったりとか。
なんかいつの間にか色々メディア展開もされてた、そんな作品。

というわけで、ルー=ガルー。
完結に表すなら、京極夏彦が描くライトノベルって言う感じですかね。
勿論ライトノベルを、京極さんを、バカにしていると言うわけではなくて。
ライトノベルっぽさ(ジュブナイルっぽさ?)を持った、厚みの有る作品と言うか。
ライトノベルの様にすらすらと読める、でも重みがある…そんな感じでした。
ずっと本棚に締まっておいたのが勿体無いぐらいの内容だったと思います。
メリハリもあって盛り上がる所もあり、ライトノベルの様に動きも多い。
読んだイメージ的にはそんな感じでした。

とにかく全体的にライトノベルっぽさを演出してるんだけど、
やっぱり言い回しやなんやと京極さんらしくて…そこが面白い所の一つですかね。
特に近未来やデータに集約される設定、主な登場人物の年齢が14歳前後。
そこだけ見れば、ほんとライトノベルにごまんとある設定じゃないのって思うけど。
それを上手く動かして物語を進めてたと言うか、キャラが上手く動いてたと言うか。
そういう部分だけ抜き取ると、やっぱラノベライクと言わざるを得ないし、
ライトノベルなものを目的として書いたのかな、と言う気もやっぱりする。
つまりライトノベルの良さと、厚みの有る文章の良さを取り入れると言うか。
垣根をはらって上手く物語を作ってる…って言う感じでした。

もう一つは、近未来的な設定のデザイン。
人間は既にモニタとしか向き合わなくなって…みたいなそういう部分。
それらはどうも、設定の応募といった手法で集められたアイデアらしいです。
インタラクティブなノベルス…ってのを目的にして描かれてたみたいですね。
どこまでが寄せられた設定で、どこからが京極さんのアイデアなのか。
と言う事は判りませんが、少なくとも作中の整合性は取れてたと思います。
色んなところから集めて一つのものにした、と言う印象は受けませんでしたね。
つまり、寄せられたアイデアを自分の中で昇華して物語にしていく…。
物語に使っていく、と言う感じだったのかな、と。

なんにせよ少しぶあつめの作品ではあるんですが、
読み始めたら気付いたらさくさく読めて、面白いまま終わってた感じですね。
本当の意味で面白いライトノベルを読んでるような時の感覚と言うか。
さくさく読めるんだけど、中身を反芻しながら楽しめる感覚と言うか…。
そういう読後感、読中の満足感はきちんとありました。
まあ…正直京極堂シリーズじゃないし、ラノベライクって言ってるし…。
最初はそんなに期待してなかった(すいません!)ってのもありますけど。
読んで満足できる作品だったので、非常に良かったなぁ…と。

後キャラクターそれぞれの魅力もきちんとあって。
主役は子供達なんだけど、大人(橡や不破)の描き方も上手くて。
まあ、そこはやっぱり京極さんらしい言い回しや動かし方だったな、と。
本当の意味で主役は子供達ではあるんですけどね。
昔子供だった橡や不破との対比…今と過去の対比が面白くて。
どちらも魅力的なキャラクターに仕上がってたな、と。

個人的には葉月と雛子が良かったかな。
ただ、葉月はこれ、男キャラに置き換えるとかなり鬱陶しい部分はあるので、
女の子として描かれてて本当に良かったな…と言う気はするんですけどね。
それに加えて、この作品の中で葉月が何か動いた事…ってのは明確には無くて。
全て美緒や歩未に寄る部分がかなりウェイトを締めてた気はしますけどね。
それでも物語りにいなくてはならない、そういう役割を担ってもいて。
中々描くのが難しいキャラ…ともすれば邪魔なキャラになりかねない。
そういうキャラクターなのに、上手く動かしてたなーと感心しました。
雛子はなんか単純に好きでした、ある種脇役なんですけどね。

というわけで、エンタメ小説として十分楽しめる出来でした。
まーミステリーなのか…といわれると多分違うんじゃないかなーと思いますが。
一応推理要素と言うか、解説的な部分って言うのはきちんとありましたけどね。
それが重要だったのかと言われると、あんまりそうではなかったんじゃないかな、と。
葉月や美緒、歩未が触れた世界と言うか…これからも触れていく世界と言うか。
リアルとヴァーチャル、その境界線やなんやを描いてるのが軸と言うかね。
で、こんな未来になってるのかもなぁ…と、思えるような雰囲気が良かったです。

それに加えて、なぜ人を殺してはいけないのか。
そういう部分に明確な答えが描かれてたのが大事だったんじゃないかな、と。
人と関わりあう事が少なくなった近未来の世界だからこそ。
命というものを重要な題材にしてたんじゃないかな、と思います。

と言う訳で全体的に面白かったし。
なんか2巻目? と呼んで良いのかは判んないけどあるみたいだし。
今度本屋で見かけたら、2巻目を買って来ようかなとかそんな勢いで。
ただ、今回のキャラクターが出演してるのかとかは判んないんですけどね。
葉月、美緒…麗猫や雛子に加えて橡や不破の物語はきちんと終わったわけだし。
強いて言えば歩未なのかなぁ…まあそういう部分も含めて楽しみにしておこうかな。

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